がんば「死の病」ではなく「長寿の兆し」といえる病です

自分の胃がんを発見。「ついに来たな」

がんとは老化現象なんです。したがって、がんになりにくくするために最もたいせつなことは、栄養をきちんととって、運動をして、若さを保つことだといえましょう。

2つ目に何がたいせつかというと、「いつの日にかがんになる。ならなきゃもうけもの」というくらいの気持ちでいること。そのほうが、人生は幸せです。そうすれば、がんになっても、「おれの順番が来たな」と思うことができます。

実は私も、いまから26年前に胃がんを経験し、手術をしています。当時、私は54才でした。私は胃がんの早期発見に役立つ「X線二重造影法」というX線法を開発し、その解説やレクチャーのために、日本全国を飛び回っていたころのことです。ある日、大阪の診療所で、X線写真の説明をするために、たまたま実験台として自分の胃を撮影。その写真に早期胃がんを発見したのです。

「やあ、ついに来たな!」と思いました。そして次に、「1ヵ月は入院することになるだろう。前々から頼まれていた、再来月の外国での講習会に出席できるだろうか?」と冷静に考えました。この段階で手術をすれば、99%は治ると思ったからです。

もちろん、自分が残りの1%になるという可能性も、なくはありませんでした。不安にもなりましたし、それまでには考えなかったことも考えるようになりました。「これでおしまいになってしまうかもしれない人生とは何か」「もしも死んだら、だれがほんとうに悲しんでくれるだろうか」「がんセンターの将来はどうなるのか」などなど。深夜の病室、トイレの中などで、ふと考え込んだものです。

そういうときは、熱中できそうな長編小説や趣味の本を読みました。「めでたしめでたし」で終わる時代劇を見るのもいい。私の場合は、囲碁の本と「水戸黄門」です。この2つが、どんなにか慰めになってくれたかわかりません。その後は、手術を受けて約2週間で退院。講習会に予定どおりに出かけて、特別講演を行いました。

術後の胃の状態も、むしろ以前よりもよくなりました。私には20代のころから胃潰瘍という持病がありましたが、胃がんの手術のときにこれもいっしょに切りとってしまったのです。それから十何年の歳月をへて、今度は前立腺がんを経験し、こちらも手術をしました。「2回目も無事に乗り切れたな」と、そういう感じでした。

「がんがふえている」といいますが、これは平均寿命が延びたことの裏返しでもあります。昔は、どこか1つがんをやったら、そのがんで亡くなってしまう人の割合が多かった。だけど、いまは治る人が非常にふえたので、2つ目も3つ目もやります。十幾つやった人もいるくらいです。皆さんにもたくさんのがんを経験して、世界記録をつくるほど長生きをしていただきたいと思います。

「検査と安心」を繰り返して生きられるだけ生きよう

病気というものは、実態がわからないままに、こわい、こわいと思うからこそこわいのです。早期に発見して、手術をしてしまえば、案外あっけないものです。

たとえ、がんが進行してから見つかったとしても、「自分に勝つ」という心構えを持つことがたいせつです。ここ20年のがんの診断・治療技術の進歩は目覚ましいものがあります。日本のがんの治癒率はたいへん高くなっており、早期のものなら90%以上の確率で治ります。重症患者の多い国立がんセンターでも、治癒率は60%を超えました。それに、日本人は手術が実にうまい。技術は世界一です。

もはや「がん=死」という定説にこだわる必要はありません。ただ、ぜひ覚えておいていただきたいことは、「がんにかかっても自覚できる症状はほとんどない」ということです。これは、裏を返せば、「予防をしっかりしているから、私はがんにはかからない」などと過信をせず、なんともないときに検査を受けて、「いまは大丈夫」という確証を繰り返してほしいのです。40才を超えたらまず一度は検査を受けてください。一度受けて問題
なしと言われたからといって、免罪符が何十年も有効だとは思わないでください。少なくとも、1年に1回は受けてほしいと思います。

そして、もしも早期のがんが見つかったら、ほっとひと安心です。

私はこのような患者さんにいつも、「がんが見つかって、おめでとう」と申し上げてきました。たいていの人がいったんは複雑な顔をされますが、じきに言葉の真意を理解されます。早期胃がんであれば、3週間もするとニコニコと笑顔で退院して帰っちゃうからです。「心配するな」と言われると、よけいに不安に陥る人もいますから、私は何百人もの患者さんに「おめでとう」と言いました。

それに、がんにかかっても、進行がゆっくりであれば十分に天寿を全うできます。事故や脳出血などで突然死ぬこととくらべたら、残された時間をどう過ごすか、考えるための猶予を得ることができる、ともいえましょう。そう思えば「がんで死ぬ」ということも、それほど悪くないかもしれません。

どうぞ皆さん、「検査と安心」を繰り返して、生きられるだけ生きてください。自分の人生を最後まで自分の意思で生き抜いてほしい。それが私の願いです。 

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